202309

所属の成人看護学領域の先生方と。中央が天野先生です。

人間環境大学 看護学部
天野 薫

千葉大学看護学部卒業。千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。静岡県立静岡がんセンター看護師、名古屋市立大学助教、聖隷クリストファー大学准教授を経て、現職。エンドオブライフケア、がん看護と高齢者看護を融合した看護ケアに関する研究に取り組んでいる。

With/Afterコロナ時代の看護学の発展と可能性

 世界保健機関(World Health Organization; WHO)により新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease;COVID-19)のパンデミックが宣言されてから3年半。日々、刻々と変化する未曽有の感染状況の中で、講義・演習・実習の展開方法を模索し試行錯誤した日々や、未知なるウイルスへの恐れを抱きながらも、安全に、より良い臨地実習ができるよう、教員・学生と共に奮闘した日々を思い出します。
 WHOによる緊急事態宣言が終了した現在、感染者数の増加について未だ気を抜けない状況は続いていますが、少しずつ、COVID-19パンデミック以前の日常に近い環境で学生や同僚の教員、研究者らと語らい、研究活動や看護学教育に携われるようになってきたことに感謝ばかりです。
 さて、看護学領域に多大な影響を与えたCOVID-19パンデミックの時期において、私は、看護研究活動に関する調査プロジェクトと、看護学教育を受ける学生の実態調査に参画する機会をいただきました。この2つの調査プロジェクトに関わる中で見えてきたのは、社会情勢の変化に翻弄されながらも、看護学の発展に向け果敢に挑む看護学研究者や、未来の看護職を志し学修等に取り組む看護学生の逞しさでした。
 COVID-19拡大状況下における看護研究活動に関する調査1)では、研究環境の悪化や変化した社会情勢への困惑、研究への従来の取り組み方が通用しないことによる心理的負担により、研究キャリアを積むことが困難になりつつも、COVID-19パンデミックの時期を既存の価値観に囚われない発想転換の時機と捉え、新たな研究課題の開拓に挑む看護学研究者の思考と行動力が、看護研究活動を進展させていくことが明らかになりました。実際に、デジタル技術を活用した看護学教育や遠隔看護等については、COVID-19を機に、質の高い教育や看護ケアを多くの人々に届けるものとして研究が進展し、現在に至っています。
 そして、COVID-19パンデミック宣言から約1年が経過した時期に、看護学教育を受ける学生を対象に行った実態調査2)では、全国の看護系教育機関に所属する9000名を超える学生からの声が届きました。日常生活、経済状況、学修環境、就職活動等、全般にわたる不安を抱えつつも、看護学生うち67.9%が「看護職になりたい気持ちは変わらない」、16.6%が「看護職になりたいという気持ちが強くなった」と回答しました。看護職への志向性の変化には、感染拡大状況でも充実した学修体験ができたことや看護職の価値に対する意識の高まりが強く影響していたことが示されています。この背景には、各看護系教育機関の学修環境を整えるための創意工夫や実習施設との協働、そして、逼迫する医療提供体制の中で重要な役割を果たした看護職の存在、看護学生一人ひとりの努力があったであろうことは言うまでもありません。
 COVID-19拡大状況下における看護研究活動や看護学生のあり様から、不確実で予測がつかない危機的状況に直面してもなお、進展し続ける看護学の可能性を再認識することができたように思います。私自身も、同僚の教員や研究者と共に、看護の価値を共創し続けること、伝えていくことに貢献したいと考えています。

  • 1)天野薫、森本浩史、渡邉梨央、佐藤浩二、深堀浩樹、新福洋子、吉永尚紀(2021):COVID-19拡大状況下の看護研究活動の阻害要因と促進要因の探索、日本看護科学会誌、41、656-664.
  • 2)正木治恵、天野薫、中島麻紀、田村由美、佐々木久美子、外薗由紀、石橋佳子(2023):新型コロナウイルス感染症拡大状況下で教育を受ける看護学生の声、日本看護学教育学会誌、33(2-1)、15-27.

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