202311

2023年4月10日に設立された日本きょうだい福祉協会の皆様と。左から2番目の方が涌水先生です。

筑波大学 医学医療系 発達支援看護学分野
涌水 理恵

東京大学理科二類に入学し、東京大学医学部健康科学・看護学科を卒業。東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了(保健学博士)。虎の門病院、筑波大学附属病院、東京都認証保育所での看護師経験を経て、現在に至る。発達支援、小児看護、家族ケアを融合した家族支援に関する諸活動に取り組んでいる。

“家族”を中心に据えた私の看護学研究者としての諸活動のこれまでとこれから

 先天性が多い小児の病気は、本人はもちろん、家族にとっても深刻な問題です。特に、完治が望めず再発や悪化が懸念される小児患者さんを抱えた家族の気苦労は察するに余りあります。患者さんが入院中は、医師や看護師のサポートを受けられますが、診断がつく前や退院後のサポートはどうすればよいのでしょう。その問いを学生へも教育の中で投げかけ、自身も実地調査やトランスレーショナルリサーチを遂行しながらEBN(Evidence Based Nursing)に裏付けられた小児家族ケアの実現を目指しています。
 一般に看護の対象は、病院または在宅で治療または療養中の患者さんが中心です。しかし患者さんがお子さんの場合、セルフケアが確立されておらず、家族が24時間近く付き添ったり毎晩消灯まで面会したりするケースが多くあります。中には、年端のいかないきょうだいが自宅で一人きりの夕飯を取ったり、祖父母宅に当分の間あずけられたり、といった場合もあります。そのような事情を抱える家族への社会的なサポートは、残念ながら不十分です。しかも、慢性的な病気や障碍をもつお子さんとその家族をめぐる事情はきわめて特殊かつ多様です。私たちはこれまで、特に在宅重症児者の家族の生活実態を質的かつ量的に精細に調査し、家族エンパワメントに関する実証的モデルの構築1)と家族エンパワメントプログラムの開発2)および効果検証3)をおこなってきました。今は効果検証済のプログラムを盛り込んだリモートケアシステムにおいてオンラインでの家族ケア・きょうだいケアの社会実装をおこなっています4)
 他にも入院するケースが稀な発達障碍児を抱える家庭の事情はどうでしょう。私たちは、外来で「発達障碍」との診断を受けて通院中の障碍児をもつケース350例で調べました。生まれた子どもが発達障碍かもしれないと母親が「気づく」までの平均期間は、生後26.1カ月でした。そのうち70%以上の母親は子どもが3歳未満(約20%は1歳未満)から、わが子に問題があることに気づいていました。母親の葛藤はそこから始まります。懸念を夫や親族と共有できなかったり、障碍児を産んだことに対する罪の意識にさいなまれたりするケースが多いのです。同調査では、最初に外来に相談に来るのは、平均すると生後45.9カ月、最初の診断に至るのは生後67.7カ月でした。最初の気づきから診断に至るまで41.6カ月もの時差があるのです。その間、母親は自分だけで悩み葛藤しつづけます。その数年間の苦悩を考えると、診断確定前から親子の状態を把握し、さりげなく歩み寄って親子支援、家族支援を開始するのが理想だと、私は提唱しています。実際に認定ファシリテーターとしてつくば市、水戸市、神栖市、東京都新宿区などで前向き子育てプログラム(Positive Parenting Program)などを開催しましたが、多くは子どもとの関わりに苦悩する母親が参加され、その効果はご自身の子育てのしやすさや自己効力感のみならずパートナーとの関係や子どもの問題行動にもプラスの影響を及ぼしたことが示されました5)
 重症児を抱える家族では深刻度が増大します。特に先天性の重症児の場合には、母親の罪の意識がとても強いです。夫やその親族との関係が悪化していることもあります。年の近い上の子が精神的ダメージを受けていることもあります。家族内での助け合いだけでなく、家族を一単位とした社会から家族へのサポートが必要なのです。私たちは10年来、在宅重症児の家族について、患者組織や療育センター、大学病院の外来、行政の障害福祉課などの協力を得て、多くの調査を実施してきました。夜間のケアで幾度も中途覚醒し「朝まで寝たことはないんです」と語る母親、緊急時に車の運転があるからと晩酌をやめた父親、甘えてこなくなったきょうだい児、など主治医にも言えない実話や心情が明かされることも多くあります。そうした中で、私が特に意識していることがあります。まず、対象家族の「セルフケア機能」(図1)をアセスメントすること。そしてそれをもとに、「家族エンパワメント」(図2)(家族が、健康問題を有する児の養育に向けて自分の生活をコントロールし、家族・サービスシステム・社会などと協働する状態または能力)を掌握した上で、必要に応じて介入の糸口を模索することです。家族の「セルフケア機能」や「エンパワメント」の過程を把握できれば、適切なサポートの検討や提供がしやすくなります。今後、親へのレスパイト(親の精神的疲労を軽減するための一時的なケアの代替)、きょうだい児への心理教育的アプローチなど、社会的サポート態勢を充実させていかなければなりません。
 私は大の子ども好きです。子ども=無邪気(邪気が無い)とはよく言ったもので、子どもがただそこにいるだけで(おはなししたり、遊んだりすればなおさら)心身が雲一つない晴天のようになってくるのです。小学校5,6年生の頃から幼稚園の教諭や保母さんに憧れていました。高校1年の模試後に教師の勧めもあって理系を選択し医大に合格しましたが、東京大学理科二類に進学し、健康科学・看護学を専攻しました。行政や民間企業に進む道もありましたが、小さいころから子ども好きだったことと小児病棟で慢性的な病気や障碍をもつお子さんとその家族に出会ったことで、小児家族ケア研究および小児/家族看護の教育の道に進む決断をしました。
 対象家族に深くかかわることで、暗黙知の形式知化、専門職どうしの繋がりなど、留まるところを知らないほどの広がりや発展があります。親はもちろんきょうだいや祖父母等“家族”を中心に据えた研究プロジェクトや支援活動を今後ますます拡充していきたいと考えております。

  • 1)涌水理恵、藤岡寛、西垣佳織、松澤明美、岩田直子、岸野美由紀、山口慶子、佐々木実輝子(2018). 在宅重症心身障害児の家族エンパワメントに関する実証的モデルの構築. 小児保健研究 77(5): 423-432
  • 2)Wakimizu R, Fujioka H, Nishigaki K, Sato I, Iwata N, Matsuzawa A (2022). Development of family empowerment program for caregivers of children with disabilities at home: Interim report up to ‘Implementation of pretesting’. Journal of International Nursing Research 1: pp. e2021-0004. https://doi.org/10.53044/jinr.2021-0004
  • 3)Wakimizu R, Matsuzawa A, Fujioka H, Nishigaki K, Sato I, Suzuki S, and Iwata N (2022). Effectiveness of a peer group-based online intervention program in empowering families of children with disabilities at home. Frontiers in pediatrics 10:929146. doi: 10.3389/fped.2022.929146
  • 4)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22H00490/
  • 5)Wakimizu R,Fujioka H (2015). Strengthening positive parenting through two-month intervention of a local city in Japan: evaluating parental efficacy, family adjustment, and family empowerment. European Journal for Person Centered Healthcare 3:503-512

back

TOPへ戻る