202004

宮城大学 看護学群
大熊 恵子

聖路加看護大学(現・聖路加国際大学)卒業後、臨床経験・教育研究を重ね、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士前期課程・後期課程に進学し修了。2014年から現職。専門分野は精神看護学。

新型コロナウイルスへの対応に思うこと
-大学の健康支援室長の立場から-

 この原稿を執筆している2020年3月、WHO(世界保健機関)から新型コロナウイルスに関するパンデミック(世界的大流行)宣言が出され、全世界がこのウイルスの感染拡大を防ごうと必死に検討しています。その対策の一環で、本学でも卒業式・入学式が中止となり、学生の晴れ舞台を用意することができなくなってしまいました。卒業式・入学式は、大多数が集まる密閉した空間で行われるため、新型コロナウイルスの感染拡大が起こりやすい状況を作ってしまいます。万が一、学生が新型コロナウイルス感染症を発症してしまうと、大学だけではなく地域全体に影響を及ぼしてしまいます。本当に苦渋の決断でした。
 私は本学の健康支援室長を担っています。健康支援室では、学生がかかえる体や心の健康に関する不安や悩みに対して一緒に考え、よりよい大学生活や学修ができるように支援しています。私の専門分野が精神看護学ということもあり、これまではメンタルヘルスの問題を有する学生への支援について、教職員や学生自身から相談を受けることが多かったのですが、最近は一変しました。大学の講義・実習を予定通り行うのか、行うとしたら教員・学生・保護者に協力をお願いすることは何か、大学内で発症した時の行動フローはどうするのか、大学内での消毒・換気をどうするのか、マスクを渡す優先順位をどう決めたらいいのか…誰もが経験したことのない事態への対応を迫られ、室長として毎日必死に検討しています。正直、先が見えない不安から、私自身のメンタルヘルスも悪化してしまうのではないかと感じるときもありました。
 このような状況でも救いになったこと、それは、学生の健康支援を担当する教職員の関係性が既に構築されており、“ワンチーム”になっていたことです。このような事態が発生する前から、学生の問題が発生したときはスチューデントサービスセンター(健康支援室の上位組織)長や健康支援室のメンバー(保健師・カウンセラー・各学群の担当教員)・学生支援担当の事務職員が随時集まり、その時にできるベストは何かを考え、全員で検討していました。今回の新型コロナウイルス問題に対しても、そのメンバーに感染症の専門職を加え、問題が生じたら即座に検討し、現時点でベストな対応と考えられることを選択していきました。これからも情勢は変化し、思いもよらない状況に陥ることもあると思いますが、“ワンチーム”で乗り越えていきたいと思いますし、このチームなら乗り越えられるという強い信念を持っています。東日本大震災の危機を乗り越えてきた大学という強みもあります。
 最後に、精神看護学を専門分野としている者として、心配していることがあります。それは、新型コロナウイルス感染症から回復した方々・家族のメンタルヘルスに関する問題です。回復したのに、会社に来ないでほしいと言われたなど、差別的な対応を受けたという報道もあります。このような対応を受けると他者へ相談することもためらい、一人で抱え込んでしまい、精神疾患になってしまう可能性もあります。私たちは、体の健康だけではなく、心の健康を保つためにも、今日もさまざまな対応について検討していきます。そして、一刻も早い新型コロナウイルスの終息を願います。

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