202106

東京医療保健大学 東が丘看護学部
加藤 知子

大分県立看護科学大学、徳島大学医療技術短期大学部助産学特別専攻卒、東京医療保健大学大学院博士課程修了(看護学博士)。助産師として病院勤務を経て、現職。胎児の放射線防護のあり方についての研究に取り組んでいる。

放射線の利用において、
「科学」と「こころ」を繋ぐことができる看護職を

 助産師として放射線防護・安全に係る教育研究に取り組んでおります。
 放射線防護・安全に関心を持つきっかけは、看護大学の卒業論文で、NICUにおける低出生体重児の放射線被ばく線量評価に取り組んだことでした。その後、修士論文、博士論文でも、放射線をテーマに、看護職の放射線防護のあり方、母子の放射線防護について取り組んできました。この取り組みの中で、看護職が放射線や放射線被ばくについて患者さん、妊婦さん達と真剣に向きあう必要性と看護職が放射線・放射線被ばくについて学ぶ機会がほとんどないことを痛感しました。
 医療の領域では、放射線診断・治療は欠かすことができない診療行為・手段であるにも拘らず、看護職の放射線診療、放射線・放射線被ばく、放射線影響・リスクに対する関心・認識は低く、知識・技術が不足しています。2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の際の住民調査でも、住民の方々の不安が胎児や子どもへの健康影響、将来生まれてくる子や孫への遺伝性影響に関するものであるにも拘らず、住民のみなさんとこれらの課題に面と向かって対応できる看護職が限られていることなどが指摘されておりました。そこで、私自身が、患者さんや住民の方々と対峙できる助産師を目指すことを決心し、助産師の視点(母子保健の視点)からの放射線防護研究を自分の研究領域の一つとすることにしました。さらに、助産師教育の中で、放射線防護・安全の教育を取り入れることを進めていきたいと考えました。
 現在、本学の大学院看護学研究科の高度実践助産コースでは、放射線被ばくと胎児影響についての講義を設定し、①放射線被ばくによる健康影響と胎児に影響する妊娠の時期、②防護方策と10日規則、③職業被ばくと女性の線量限度、の3点をとりあげ、ラボラトリー・メソッド演習として、放射線防護演習も取り入れています。いずれの講義内容も、ほとんどの学生が初めてのことで、真剣なまなざしで必死にメモをとりながら講義を聞いてくれる姿を目にし、これが、本学以外の助産師教育の中に拡大されればと願っております。
 人々の健康に関わる多くの要因の中で、放射線の健康影響に関する知見は大変豊富であること、また、放射線に関する測定技術の進歩も目覚ましく、放射線防護は「科学」そのものです。妊婦さんをはじめとした人々の放射線に対する不安は「こころ」の問題です。看護職は、放射線の利用において、「科学」と「こころ」を繋ぐことができる専門職であると考えております。
 医療領域をはじめとした放射線利用が、人々の「安心」の下で推進できる役割を果たすことができる看護職の育成等に関わることができる教育研究者の立場に席をおかせていただいていることに感謝しつつ、教育者としてさらなる自己研鑽に励みます。そして、「放射線」という一つの限られた窓を通した研究を通して、研究の基本的な姿勢を学ぶことができ、さらに多職種の連携の下で研究を進めていくことの重要性を実感することができ、研究者としても成長していく所存でおります。

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