202110

北海道科学大学 保健医療学部看護学科
石川 幸司

北海道大学医療技術短期大学部を卒業後、北海道大学病院で勤務。2008年にDMAT隊員資格を取得し、災害支援活動を経験。2013年に急性・重症患者看護専門看護師取得。2015年に北海道科学大学保健医療学部看護学科に入職し現在に至る。2017年に北海道大学医学研究科博士後期課程修了(医学博士)。

“命を守る現場”で、ケアする力を

 私はクリティカル領域においても看護師としてのケアする力を身につけてもらえるような教育に取り組んでいます。
 臨床時代、集中治療や救急領域でながく勤務していました。そこでは、新卒看護師が「看護をしている実感が持てません」、他部署から異動してきたスタッフは「ここでの看護って何か良く分かりません…」という声がありました。循環器内科病棟で勤務しているときには、スタッフからそのような声を聞いたことはありませんでした。慢性期では看護を実感できるのに、なぜ急性期では…その時、自分に答えは見いだせず悶々としていたことを記憶しています。集中治療や救急などのクリティカル領域において、自分が実践している看護を言語化することに困難を感じていたのです。そこで、実践している看護を可視化したいと思い、専門看護師を目指して資格を取得しました。その後、これらの実践を形にする研究力を高めたいと思い、博士後期課程に進学しました。そして、研究だけではなく教育の道を選択して現在に至ります。
 生命が危機的な状況はクリティカルと呼ばれ、複雑な病態を踏まえた観察が必要となります。ここでの観察は、患者の疾患だけではなく、それにより生じる症候などの病態を捉え、状態を判断してケア介入する方向性を見出す必要があり、確実な知識を基にした観察力は非常に重要なものです。ここに看護独自の判断があり、適切な実践をするための思考が存在します。確かに、クリティカル領域では病態などの知識が重要ですが、昔でいうミニドクターを目指しているわけではありません。このような看護の特徴を学んでもらえるように教育したいと考えています。
 学生は教科書に書いていることを読むより、実習での体験が多くの学びとなります。しかし、基礎教育の実習ではクリティカル領域で体験できることも少ないため、自分自身の臨床経験や災害支援活動という生の体験を言語化して伝えるように工夫しています。実際の臨床での経験を説明することはもちろん、シミュレーションも教育手法として取り入れています。
 研究活動としては、シミュレーション(模擬環境)で救急現場をリアルに再現し、看護師の生体反応(驚きや戸惑いなど)を心電図や脳波で測定するという実験を行い、どのような方法が有効な教育方法となるかを検証しています。このような研究成果は、教育するための基礎資料として大いに役立てることができます。そして、シミュレーションを活用した教育は、何度失敗しても実際の患者さんに影響がないというメリットをいかし、実際の救急場面に遭遇することが少ないというデメリットを解消することができます。現在、基礎教育で実習経験がない学生や臨床でも経験が積みにくい看護師を対象にして、研究成果を活用して看護師としての判断や実践について教育できるように取り組んでいるところです。
 このようにクリティカルな状況である“命を守る現場”においても、これが看護なんだと実感をもってもらいたいと思います。クリティカル領域としての特徴を理解し、このような場面においても安全かつ適切にケアする力を身につけることに貢献していきたいと考えています。

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