202302

佐賀大学医学部看護学科 生涯発達看護学講座 急性期看護学領域
川久保 愛

佐賀大学医学部看護学科卒業後、熊本大学病院、佐賀大学医学部附属病院での勤務を経て、2013年佐賀大学大学院医学系研究科看護学専攻を修了(看護学修士)。同年、佐賀大学医学部看護学科 成人・老年看護学講座(現 生涯発達看護学講座)に着任(現職)。現在、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻博士後期課程に在籍。

現場での経験に学ぶ

 この春で、看護基礎教育に携わるようになってから10年目を迎えます。私の臨床経験は決して長くはありませんが、多くの出会いと学びに彩られた、大切で実り多き時間だったと思います。折に触れて、当時自分が実践した看護の意味を今なお問い続けることもあり、やはり自分の看護観のルーツは臨床経験にあると感じます。
 臨床を離れてから、私と臨床、そして患者さんを結ぶ大切な機会が臨地実習でした。この10年で学生とともに出会った患者さんは、300名ほどになります。どの患者さんも、多くの学びを学生たちに与えて下さり、感謝の念に堪えません。そして私も、学生とともに悩み、気づき、学ぶ。そんな10年を積み重ねてきたように思います。
 いうまでもなく、臨地実習は、看護基礎教育において知識と実践を統合するための重要な教育機会です。非常にストレスフルではありますが、患者さんに出会い、様々なスタッフとコミュニケーションをとる中で、学生たちは数多くの学びを得ます。日々たくさんの刺激を受ける学生たちを見守る中で、しばしば、学生がぐーっと成長をする機会に立ち会うことがあります。机上の学習では得られない患者さんとの相互作用の中で、学生の心が静かに揺れる体験―それはポジティブな体験であることもあれば、ネガティブな体験であることも。そのとき学生の準備が整っていたなら、できるだけタイムリーに、問いかけることを心がけています。「どう感じた?」「それはなぜだろう?」教員や指導者との対話を通じて、やがて自身の経験の意味を深化し、看護の面白さ・奥深さに気付く学生。見ちがえるように生き生きと実習をするようになり、いっそう患者さんへと気持ちを向けていきます。その姿を見ることは、まさに看護教員の醍醐味であり、大きなモチベーションです。
 ジョン・デューイが提唱した「経験における熟慮reflection」は、臨地実習で得る学生の経験を学びに変える重要な教育手法であり、臨地実習における教員の大きな役割だと考えます。重要な体験を素通りすることがないよう、可能な限り学生の経験を共有したり些細な学生の変化に留意すること、丁寧に意味づけを行うことを大切にしています。
 人に触れ、看護に触れて静かに揺れる学生の心が、大きく温かく育っていく場に、今後も携わり続けたいと思っています。

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