202008

2019年に開催した「肺高血圧症スキンケアワークショップ」での一場面。ヒックマンカテーテル挿入中のスキンケアに関して、WOCナースを招いてのワークショップを開催しました。左側の方が瀧田先生です。

東京家政大学健康科学部看護学科
瀧田 結香

東京医科歯科大学卒業後、慶應義塾大学病院循環器内科病棟に勤務。杏林大学保健学部、慶應義塾大学看護医療学部を経て、現職。病棟看護師時代から肺高血圧症看護に関する看護研究に取り組み、ライフワークとして現在も継続中。慶應マインドフルネスチームにも属し、マインドフルネスの研究と普及に努めている。

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~臨床の肌感を忘れない研究、患者さんのための活動~

 現在私は、大学での看護教育と並行して肺高血圧症看護に関する研究を行っています。さらに、肺高血圧症患者さんへのより良い看護ケア実践のために、全国の肺高血圧症治療主要施設の看護師による座談会の開催や、ヒックマンカテーテルを植え込んでいる持続静注療法患者さんへのスキンケア技術向上を目指してのWOCナースによる看護師対象スキンケアワークショップの開催、学会でのシンポジウム企画などの活動も行っています。周囲から「なぜそんなに精力的に活動しているのか?」という質問をされることがたびたびあります。その答えは、私の研究の原点にあるのかもしれません。
 私の研究の原点は何か?それは、肺高血圧症患者さん達と出会った大学病院の看護師時代にさかのぼります。肺高血圧症は希少疾患であるため、患者さんの数が少なく、なかなか研究が進まない分野でもありますが、当時働いていた病棟は、肺高血圧治療の第一人者である医師がいたこともあり、全国から患者さんが集まってきていました。
 ここ10年で肺高血圧症の薬物治療が劇的に進歩しましたが、当時は24時間持続静注するエポプロステノールという薬が日本でようやく認可され始めた頃で、肺高血圧症と言えば妊娠可能年齢の20~40代に好発し、突然発症する極めて予後不良な難病でした。つい先ほどまで笑顔で話していた患者さんが急変して突然亡くなるというショッキングな場面も何度か経験しました。肺高血圧症の患者さんに初めて出会った日のこと、患者さんのケアをして共に過ごした日々は今でも決して忘れることはありません。患者さんと一番密接に関わる看護師は、患者さんが辛い心の叫びを伝えてくる場面にたびたび直面します。私も例に漏れずそんな場面に幾度となく遭遇しました。患者さんの命を最優先に医療を進めようとする医師の気持ちも痛いほどよくわかるけれども、患者さんの思いも置き去りにしたくない、でも、生命の危機を考えると時間がないのも事実、そんなジレンマを感じていた時に、立ち上がったのが看護研究チームでした。
 「患者さんたちの苦痛を少しでも軽減するにはどのような支援が必要か、患者さんたちが生き生きと生活していくために必要な看護は何だろう?」、そんな一心で3交代勤務をしながら、寝る間も惜しんでチームメンバーと研究に取り組んだ日のことがついこの間のことのように思い出されます。こうしてまとめた研究を、医師も参加する学会で「治療の意思決定の際にはメリットだけではなくデメリットも伝えていかないと患者さんはこんなに苦しんでいるんだ」という結果を発表したことがありました。以降、医師の説明内容が変化してきたことを一番最初に実感したのは患者さん達でした。“研究として患者さんの思いや体験、実態を明らかにし、その声を届けることで、本当に医療は変わっていくんだ!”と心の底から実感できた瞬間でした。この当時結成された病棟の看護研究チームは結婚・出産などで解散してしまいましたが、その後大学教育の道へと進んだ私は、肺高血圧症患者さんへより良い医療・看護提供のための研究をライフワークとして続けています。
 なお、病棟で研究を行っていく際にとても役立ったのは、自身が大学生だった際に学んだ研究の知識でした。あの頃は大学で学んだことがこんなにも役立つとは1ミリも思わず…、学部生レベルの知識ではありましたが、臨床での看護研究チームの一員としては十分役立ちました。そんな自身の経験を活かして、私は大学4年生への研究指導の際には、研究のプロセスだけではなく、現在の研究の勉強が将来どのように役立てられるのか、臨床に即した研究を行う意義、看護研究の力、研究の面白さなどを伝えるようにしています。最初は「研究ってなんだか大変そう、難しそう」と話している学生達が、授業が終わる頃に、「なんだかおもしろそう」「もっとやってみたいと思った」と話しているのを聞くと、「やった!」という心の声が漏れてしまいそうなほど嬉しく感じます。
 臨床現場からは離れてもうだいぶ年月が経過し、いつの間にか教育歴の方が長くなりつつありますが、この先も私は患者さんへの看護実践に活かしていけるような臨床に即した研究に取り組んでいきたいと考えています。大学教員であり研究者である私が今できること、それは、エビデンスを積み上げていくための研究を行い、その成果を公表して医療の質、看護の質向上に貢献していくこと、将来臨床現場の中でリサーチクエスチョンを見つけて精力的に研究に取り組んでいけるような看護師の育成を行うことなのではないかと思っています。
 最近はマインドフルネス研究チームの一員として、がん患者さんや医療従事者向けのマインドフルネスプログラムも行っています。うつの再発予防や医療従事者のバーンアウト予防に効果があるという結果が出ていますが、参加者の方々の変化が目に見えてよくわかり、毎クール、驚きとワクワクでいっぱいです。肺高血圧症×マインドフルネス、循環器疾患×マインドフルネス、など、無限の可能性を考えながら、“常に臨床の肌感を忘れない研究や患者さんのための活動”をこれからも行っていきたいと考えています。

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