202107

COVID-19禍の中、ハイブリッド形式で実施した特定行為研修基礎実習Ⅰの実習終了後の一枚です。(上段右端が八木先生です。)

自治医科大学医学教育センター
(原稿執筆時:自治医科大学看護学部/看護師特定行為研修センター所属)
八木 街子

山形大学大学院卒業後、慶應義塾大学病院で看護師として勤務。名古屋大学、北里大学、自治医科大学看護学部/看護師特定行為研修センターを経て7月より現職。山形大学大学院(修士(看護学))、熊本大学大学院修了(博士(学術))。

自律して学ぶ医療者を育む基盤を作る

 せっかくの機会をいただきましたので、現在の私の実践と研究について紹介させていただこうと思います。
 私は看護師の継続教育の一つである特定行為に係る看護師の研修(特定行為研修)で、研修生の指導・支援をしています。当研修センターでは、年齢も経験も職場も異なる研修生が半年に30名ずつ、年2回入講します。研修生は看護師として働きながら研修に参加しており、忙しい中ひたむきに学ぶ姿に心から頭が下がります。私は医師ではありませんので、医行為の一部を実施する特定行為研修で指導できることには限りがあります。ですが、これまで大学院で学んできた成人学習者に対する教育設計や学習支援を用いて、研修生がそれぞれの学びをsuccessできるように導くことはできると考えて関わっています。
 研修生をsuccessに導く学習支援を検討するには、彼らによく起こること、学習支援によって解決できることや緊急性のあることが何かを整理する必要があります。これは、鑑別診断の3C(Common、Curable、Critical)と同じです。私は、研修生にとっての3Cを導き出すために、感覚的・経験的印象での判断は避け、学習分析という年齢や経験年数などの背景要因や学習記録、成績などから傾向を導き出す方法を用いています。その結果を踏まえて、学習支援を設計することで、研修生にとって効果的で効率が良く、また魅力がある内容にすることができます。私は、こういったことを博士課程から継続して実施してきました。最近得られた結果で面白かったのは、看護師さんたちは、誰かに質問をする、相談するといった「援助要請」という行動を学習中に選択しやすいということと、学習計画を立てる際に日程的にタイトにしてしまいがちで、締め切りギリギリで追い込む、ということです。あー、わかる!と共感された方もいるのではないでしょうか。自分で出した研究結果に私自身も胸が苦しくなりました。締め切り前に追い込むタイプは、学習のゴールを「締め切り」にしてしまっている場合があります。私たち医療職が学ぶ内容は、締め切りに間に合うことが大事なのではなく、学んだ内容を患者・利用者・社会に提供できるまで鍛錬することが大事なので、ギリギリダッシュ型発生の予兆を感じた際にアラートを鳴らすのも私の仕事です。こういった学習支援を続けるうちに、研修生は自分に合った学習方法を見つけて、自律して学習するようになります。半年くらいかけて学習に慣れ、自律していきます。そうなると、補助輪を外した自転車練習と同じで、私にできる学習支援は「見守り」になります。研修生には「援助要請」を取りやすいという傾向もあるので、必要な時には支援を求めるでしょうし、見守る中で介入が必要な場面があれば支援を再開します。研修を修了する頃には、自律した学習者としての基盤がある程度構築され、自己研鑽を続けていく礎ができることになります。
 看護学生への指導は、真っ白なキャンバスに毎日色が増えていく感覚があり日々楽しく刺激的でした。継続教育での指導では、それぞれの経験をもとに作られたアートを活かしながら「いつまでも学び続け、成長することができる」という刺激や希望を改めて感じました。その刺激を受け、私自身も2021年夏からハワイ大学シミュレーションセンターで遠隔学習とシミュレーション教育に関する実践と研究をしてきます。もっとよい学習支援を提供できるようになるための武者修行だと思っています。これまで行ってきた遠隔学習やシミュレーション教育に関する学習支援に関して知見をまとめ、だれでも利用できるサイト開発をする予定です。こちらをお読みの皆様にお使いいただけるようにしたいですし、日本でも米国でも、自ら学ぶ医療職を育む土壌づくりに今後も勤しみたいと思います。

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