202201

開発したライトを手にした研究室の学生とのショット。右側が冨澤先生です。

弘前大学大学院保健学研究科看護学領域
冨澤 登志子

弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、弘前大学大学院教育学研究科(修士)、そして大学院保健学研究科で博士課程を取得する。その後University of Hawaii にてResearch fellow (1年)として学ぶ。病院経験を経たのち、現職にて教育研究を行っている。

見えないものを見えるようにすること、それが解決の第一歩

 弘前大学では十数年前から被ばく医療に関わる研究やプロジェクト事業を行っており、大学での教育研究の中で放射線について学ぶ機会をいただきました。東日本大震災を機にそれは大きく加速しました。これまで災害について入念に準備をしてきたとしても、人々の生活では様々な困難が生じ、医療者として学んでおくべきことがあると痛感しました。震災を機に「放射線看護」の専門分野を立ち上げ、被ばくが生じる事象や放射線防護が必要な状況を理解して対応できる人材の育成にも携わってきました。それから10年余りになりますが、現在の教育や研究の核となっているシミュレーション教育を学ばせていただく機会も得ました。あたかもその状況にいるかのように患者や看護師の体験をし、体験したことをふりかえり、ディスカッションしながら深化させていく過程で教育効果が高くなることを体感し感動したのを今でも鮮明に覚えています。すっかりとりこになり授業や人材育成も継続して実践していきました。コロナ禍で注目されるようになったバーチャルリアリティも一種のシミュレーションであり、疑似体験できる世界を構築し教育として提供することが現在の一つの研究のテーマとなっています。
 放射線に関する教育に携わるようになって、多くの学生や看護職の皆様から放射線への漠然とした不安の声を聞きます。放射線というのは見えないから人々を不安にさせ、しかもその影響もすぐにはわかるものではないため不確かな存在に感じます。見えないものが見えるようになればいいのですが、現実の世界では特殊な環境をつくらないと見えません。弘前大学では1年次から体系的に放射線に関する学習を行っていますが、さらに担当する成人看護学実習の直前に放射線防護についてミニレクチャーを行い、合わせてAR教材を使ってポータブル撮影装置からどのくらいの散乱線が出るのか実際の距離感と線量を確認してもらいました。好奇心旺盛な学生たちは放射線について少し身近に感じると同時にどうすれば不要な被ばくを減らせるか理解できるようになり、少し怖いという認識が減りました。「正しく怖がる」ためにはまずは知ることが第一歩です。
 また、バーチャルの世界では放射線を可視化できるため、放射線技術科学の先生方と放射線災害時や核医学検査などでも使用する放射線測定のVR教材も作成しました1)。コロナ禍だけでなく災害時にも非接触で教育できますし、VRゴーグルでCGの人物を相手に、スピードや体表面からの距離を把握しながら身体を使って放射線スクリーニングをしっかり実施できるので学習効果は高くなるものと期待しています。最近は特に看護以外の専門分野の研究者たちや企業と共同研究する機会が増えてきました。看護だけでは気づかなかった視点を与えていただけますし、同時に看護が得意とする調整能力が研究のマネジメントにおいては大変重要であることも実感できています。看護以外の専門分野と接しながら、看護に新たな創造を見出していくことは日々刺激があり、学生や若い先生方と柔軟にディスカッションして新たなエネルギーをチャージさせていただいています。

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