202508

山形大学医学部看護学科
朝倉 菜緒子

山形大学医学部看護学科を卒業後、同大学大学院医学系研究科看護学専攻博士前期課程を修了。2020年より山形大学医学部附属病院で看護師として勤務。2023年より山形大学医学部看護学科に助教として着任し、2025年4月より大学院医学系研究科先進的医科学専攻博士後期課程に在学中。現在、母校で教育に携わりながら、口腔ケアに関する研究に取り組んでいる。

その人に合ったより良い看護ケアを考える
~EBN(Evidence-Based Nursing)を目指して~

 私は看護の研究者・教育者となってまだ3年目ではありますが、看護系大学の教員としてこのようなコラムを書かせていただく貴重な機会をいただきましたので、自身のこれまでを振り返りながら現在の研究活動についてご紹介させていただきたいと思います。

 私が看護に興味を持つようになったのは、実は大学に入ってからでした。卒業研究の指導でお世話になった先生のおかげで、私は看護研究の面白さと奥深さを知ることになります。研究のことをもっと知りたいと思い、大学を卒業後すぐに大学院への進学を決めました。博士前期課程では口腔ケアが脳血流に与える影響について研究し、口腔内の部位や口腔清掃用具によって脳血流量に違いがあること、口腔ケアは患者にリラクゼーション効果をもたらす可能性があることを明らかにしました。

 大学院を卒業後、私が配属になった病棟は歯科口腔外科を含む混合病棟でした。口腔ケアを研究テーマに選んでいた私は、これはなにかの縁だろうと思い、学生時代の学びを患者さんのために活かそうと口腔ケアに力を入れて看護をしてきました。一方で、臨床を経験して初めて知る口腔ケアの実情と自身の知識・技術不足にもどかしさも感じました。多忙な看護業務では口腔ケアにかけられる時間は限られており、また、口腔清掃用具は患者さんが持っているものの中から選択することがほとんどでした。口の健康は全身の健康に影響しているだけでなく、精神面や社会的な健康にも関連があります。患者さんを様々な側面からアセスメントし、その人に合った適切な方法を検討することが口腔ケアにとっても必要です。では、それぞれに合った適切な口腔ケアとはどんなものだろうか、という問いが私の中に浮かびました。

 そして私は現在、母校で看護教育・研究に携わりながら、同大学大学院博士後期課程に進学し、上述した背景から口腔ケアをテーマにした研究を続けています。山形大学医学部附属病院には、重粒子線治療を受けることができる東日本重粒子センターが併設されています。世界でも数少ない重粒子線治療が可能な施設という強みを活かし、現在は重粒子線治療を受ける患者さんへの看護ケアに着目して口腔ケアの有用性を明らかにするとともに、患者さんがより良い看護ケアを受けられる手助けとなることを目指して研究に取り組んでいます。重粒子線治療は他の放射線治療と比べて高い治療効果が得られ、かつ有害事象が少ないことが特徴ですが、有害事象の発生を完全に抑えることはできません。加えて、口腔周囲への照射によって口腔内合併症が出現すると、患者さんの日常生活への影響は大きいことが予想されます。臨床で関わった患者さんの中には「副作用が出ると仕事や生活に支障が出るから」という理由で、治療の選択肢を狭めざるを得ない方もいらっしゃいました。患者さんが受けたい医療を安心して受けられるようにするためにも、根拠に基づいた安全・安楽な看護ケアを確立することはその一助となると私は考えています。この研究はさまざまな診療科の先生方やスタッフの皆様にご協力いただくことで進められている研究ですので、研究者としてのキャリアが始まったばかりの私にとって、それぞれの視点でご教示いただけることにとても感謝しています。

 これからも、たくさんの方々に支えられていることへの感謝を忘れずに、より良い看護ケアの実践につながることを目指して、研究者としても教育者としても成長していきたいと思います。学生との向き合い方については試行錯誤の日々ですが、私が大切にしている“根拠に基づいた看護”、すなわちEBN(Evidence-Based Nursing)を実践できる看護職者の育成に向けて励んでいきたいと考えています。目の前の患者さん対して「この人に合った、より適したケアがきっとある」という考えを持ち続けることは、患者さんと向き合うための大事な方法だと私は感じています。研究・教育の現場からではありますが私もこの考えを持ち続けながら、患者さんや臨床で活躍する看護職の方々に還元できるよう尽力していきたいと思います。

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